一突き二突き三突きして、
「エイヤッ。エイヤッ。エイヤッ」
と絶叫するのである。
「これはなんの行事ですね」
「なんでもいいですよ、こんなことは。逆立ちでも何でもするがいいさ。そんなことよりも、ほら、すぐそこに知った顔が見えませんか」
こう云われて、二人がその場所を見ると、そこに坐って無念無想の如くに呪文を唱え腕をふりまわしているのは川野水太郎の奥さんだ。それを見ると川野はちょッと暗い顔をしたが、大急ぎで笑い顔にきりかえて、
「変なことが、はやるよ」
「え、オイ、キミ」
大巻先生が慌てたように安福軒の袖をひいた。
「そこにいる婆さんは、例の旅館にいた婆さんじゃないか」
「そうですよ。あのヤリテ婆アのような奴ですよ。そして、その隣にいるのが、ボクの本当の女房ですよ」
安福軒は落着き払って、そう答えた。おとなしそうな年増が七ツぐらいの子供をつれて坐ってる。子供にも合掌させ、エイヤッ、エイヤッをやらせているのである。
「あのコブつきが君の奥さんかい?」
「そうですよ。なんしろわが家はこの宗教で暮しを立てていますから、女は正直なものですよ。バカなんですな。ヒマがありすぎるんですよ。ボク
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