くすすめる。
「では」
と大巻先生が上衣をぬぐのを待って、
「どうぞ、こちらへ」
教祖が腕をとって部屋の上手へつれて行って坐らせた。
「この辺がお悪いのですね」
教祖は彼の正面に坐り、彼の胃のあたりに軽く手を当てて、ジッと顔をのぞきこむ。
すでに教祖の表情は変っていた。武芸者のような無表情。あるいはキツネのお面をかぶったようだ。大巻先生はキヌギヌの彼女の泣きぬれた顔を思いだした。これと同じような突きつめた顔をして、やがてヨヨと泣き伏したのである。性慾を絶した可憐な気品がこもっていた。
胃に当てた彼女の手が、重い石のように、まっすぐ、力強く、くいこんでくる。すこしもふるえていない。そして大巻博士が何よりも意外だったことは、彼女の密接した身体から、彼女の呼吸も、脈搏も、女の体臭すらも感じられなかったことである。
彼女が手を放す。すべてが、にわかに軽く、明るくなった。そして大巻先生はふと気がついた。
「そうだ。オレは熱のことを忘れていたぞ。イヤ。全てのことを忘れていたような気がするな。しかし、なんて軽くなったのだろう」
にわかに現実へ連れ戻されたような気がしたのである。彼は思わ
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