することはあるまいと述べている学生達も多かった。
しかし生誕十五年のロシヤでは急速に変化を断定することはできぬ。環境の力は必ず人を変化させる。やがてロシヤの人々は変化しよう。だが、その程度が問題である。
極めて急進的な、人間の完全なる変化を力説する一学生は述べている。人間には社会感情《サンチマン・ソシヤル》と動物感情《サンチマン・ピオロジック》とがあるが、ソビエットに於ては、動物感情は次第に消滅して、人は全て社会感情によって行動するに至るだろうと。
社会感情とは恐らく理性を言うものらしい。そして動物感情とは、嫉妬や愛情などの超理性的な感情を言うのである。
私は軽率に否定することも差控えるが、さりとて軽率に賛同することもなりがたい。人を美醜によって判断せずに、才能によって判断するということは、所詮同じことではないか。標準が美醜から才能へ変ったところで、五十歩百歩のことである。そこから動物感情の消滅する理由は見出しがたい。同時に動物感情の消滅が人生を豊富にするかどうかを、私は今判じがたい。しかし私は、私自身を実験台上へのせて、一人のテスト氏を私の中から出発せしめ、このことを考えてみ
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