か。それではなおさら都合がよい。奥に二個荷造りしたままの荷物がありますが、あれは吉田さんお使いにならなかったのですか」
「あれは特定の霊をよびだす時の道具立てでして、実は翌る晩に用いることになっていたのですが、その用がなくなったわけです」
「道具立てがなくちゃア幽霊はでませんかな。心霊術の幽霊はホンモノよりも芝居の幽霊に似ているようですな」
「ま、そんなわけです」
「では、失礼」
警官一行はチョッピリと心霊術に皮肉をのこして立ち去ったのである。警官にしてみればイマイマしい心霊術めというわけだろう。こんなものがなければ、こんなヤッカイな事件は起りやしなかったのだ。
商売熱心の九太夫はふと気がついた様子で八十松に向って、
「吉田さんにお願いがあるんですが、心霊術ではさすが日本一と評判の高いあなた、実は私、特定の霊をよぶ方にはあまりめぐりあったことがございませんのでね。ひとつこの機会に、妙な因縁ですがこうして変な風にジッコンを重ねた御縁に、今晩特定の霊をよぶ方の心霊術を見せていただけませんか。もちろん謝礼はいたしますが」
すると糸子がおどりあがって、手をうってよろこんで、
「すばらしい
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