はないかと思うのですが」
「なるほど。あるいは気のせいかも知れませんな。しかし、そういう理由からでしたら、息子の霊に会いたい、土地の名や女の名を知りたい、孫をひきとりたい、このお志はお気の毒じゃアありませんか。お父さまの気のすむように、そッとしておいておあげになっては」
 すると姉らしい方がクスリと笑って、
「世間の人情はそんなものかも知れませんが、私たちの一族ではバカらしいだけなんです。子供たちを生みッ放しでろくにわが子らしいイタワリも見せてくれたことのない父が、ビルマのアイノコの孫に限ってひきとりたいなぞというのが滑稽なんです。イヤガラセなんでしょう。本心なら狂気の沙汰です。それともビルマのアイノコならライオンか山猫なみに育てるにもお金がかからず、気の向くままに放りだすこともできるからとでも考えているのでしょうか。ともかく私たちにとっては不愉快な出来事なんです」
「失礼ですが、お父様と仰有《おっしゃ》る方は?」
「高利貸の後閑仙七です。血も涙もないので名高い父ですが、わが子に対してもそうなんですよ」
「すると千石旅館の番頭の一寸法師の辰さんはあなた方の弟さんですか」
「いいえ、兄さ
前へ 次へ
全53ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング