か》もって生来のウヌボレ通りに、確たる自信が持ちうるものではない。
 そこへ朝廷から綸旨がきた。先ず、借金をひと廻り大きくしたゞけの至って雄大ならざる綸旨であったが、ともかく、信玄、謙信なみにほゞ近づいた天下何人かの大将の一人の公認は得たようなものだ。
 信長も始めて多少の自信を発見したが、然し、さしたる自信では有り得ない。朝廷とは何ものであるか。足利将軍家といえども朝廷によって征夷大将軍に任ぜられておるところの、しかして彼の父も朝廷によって、ようやく弾正に任ぜられたところの、日本の第一の宗家である。とはいえ、現実に於て朝廷は虚器であり、足利将軍は老蝮の松永弾正の一存によって生かしも殺しもされ、天下の政務は老蝮の掌中にある。
 綸旨といえば名はよいが、その真に意味するところは、たゞもう寒々と没落の名家の悲しさ、哀れさ、みじめさのみ漂う借金状ではないか。皇子の元服の費用を用立てゝくれよ、料地は人にとられて一文のアガリもないから取り返してくれよ、御所が破れて雨がもり寒風が吹きすさんでも修理ができないから、なんとかしてくれよ、信長を感奮勇躍せしめるよりも、哀れさに毒気をぬかれる方が先である。
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