る時には、鬱蒼とした繁みを越えて、点描された星かのやうにポツポツと眺め取られる大空が、泌み渡るやうに蒼く蒼くて、キラキラとうち耀いてゐたのであつた。
さういふ幻を描くことによつて、然し決して愉快でない私は――なぜなら、忽ち私は羞ぢらう気持を感じてしまひ、忽ち自分が厭になつてしまふので、ややともすれば、苦い怒りの現実へ踏み戻らうとするものだから、
私は、突瑳に幻を変えて――
私は、一瞬にして、懶うげな空気の中へ、透明な波紋となつて溶けてしまふと、この坂道に鳴き頻るジンジンとした蝉の音となり、そして、この真つ白な病室へ――私は、もんもんと呟き乍ら木魂して来るのであつた。
底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第一〇年第二号」
1932(昭和7)年2月1日発行
初出:「文藝春秋 第一〇年第二号」
1932(昭和7)年2月1日発行
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2010年4月8日作成
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