たしかに、よろしくない。隠したいハジをあばくのが良くないことであるなら、太宰の死体だって、撮影しようとしないのが本当ではないか。彼の破りすてた遺書などを、発表しないのが本当ではないか。第一、H画伯の顔を衆人にさらすのがイケないなら、その写真を新聞にのせなければ良いではないか。
 新聞は報道だけでよろしいのだ。だから、H画伯の写真はのせてもよろしいのです。慎しむべきは、軽薄なる正義感である。正義というものは、深く、正確な合理を重ねて論ぜらるべきもので、その日その日のネタとりの如き心で、とりあげて論ずべきものではないのである。ジャーナリズムは、慎ましくなければならぬ。ジャーナリズムこそ、最も、大いに、人権を尊重することを知らねばならず、自らの職業的特権濫用を反省しなければならぬのである。



底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
   1998(平成10)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「オール読物 第三巻第一〇号」
   1948(昭和23)年10月1日発行
初出:「オール読物 第三巻第一〇号」
   1948(昭和23)年10月1日発行
入力:tatsuki
校正:砂場清隆

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