、行ってみると驚いた。伝七郎は五尺何寸もある木刀を持っていて、遠方に武蔵の姿を見かけるともう身構えているのである。武蔵は瞬間ためらったが直ぐ決心して刀を抜かず素手のまま今迄通りの足並で近づいて行った。伝七郎は油断なく身構えていたが、いつ真剣を抜くだろうかということを考えていたので気がついた時には、五尺の木刀が長すぎるほど武蔵が近づいていたのである。そのとき刀を抜けば武蔵は打たれたかも知れぬが、突然とびかかって、伝七郎の木刀を奪いとった。そうして一撃の下に打ち殺してしまったのである。
吉岡の門弟百余名が清十郎の一子又七郎という子供をかこんで武蔵に果合《はたしあ》いを申込んだ。敵は多勢である。今度は約束の時間よりも遥かに早く出向いて木の陰に隠れていた。そこへ吉岡勢がやってきて、武蔵は又おくれてくるだろうなどと噂《うわさ》しているのが聞える。武蔵は大小を抜いて両手に持っていきなり飛びだして又七郎の首をはね、切って逃げ、逃げながら切った。敵が全滅したとき、武蔵がふと気がつくと、袖《そで》に弓の矢が刺さっていたが、傷は一ヶ所も受けていなかった。
宍戸梅軒《ししどばいけん》というクサリ鎌の達人
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