むくなるたちであった。
「まだ眠むっちゃ、いや」
「なぜ」
「私が、まだ、ねむれないのですもの」
 久須美は我慢して、起きあがる。もうこらえ性がなくて、横になると眠るから、起きて坐って私の顔を見ているけれども、やがて、コクリコクリやりだす。私は腕をのばして彼の膝をゆさぶる。びっくりして目をさます。そして私がニッコリ下から彼を見上げて笑っているのを見出す。
 私は彼がうたたねを乱される苦しさよりも、そのとき見出す私のニッコリした顔が彼の心を充たしていることを知っている。
「まだ、ねむれないのか」
 私は頷く。
「私はどれぐらいウトウトしたのかな」
「二十分ぐらい」
「二十分か。二分かと思ったがなア。君は何を考えていたね」
「何も考えていない」
「何か考えたろう」
「ただ見ていた」
「何を」
「あなたを」
 彼は再びコクリコクリやりだす。私はそれをただ見ている。彼はいつ目覚めても私のニッコリ笑っている顔だけしか見ることができないだろう。なぜなら、私はただニッコリ笑いながら、彼を見つめているだけなのだから。
 このまま、どこへでも、行くがいい。私は知らない。地獄へでも。私の男がやがて赤鬼青鬼
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