、などとことさら吹聴したが、田代さんの通人哲学、浮気哲学はヒビがはいっているようだ。田代さんは人間通で男女道、金銭道、慾望道の大達人の如くだけれども、田代さんはこれまで芸者だの商売女ばかりを相手にして娘などは知らないのだから、私みたいな性本来モウロウたるオメカケ型の女ででもなければ自分の方から身をまかせるように持ちかける女などはめったにないことを御存知ないのだ。女はどんな好きな人にでも、からだだけは厭だという、厭ではなくても厭だという、身をまかせたくて仕方がなくとも厭だといって無理にされると抵抗するような本能があり、私でもやっぱり同じ本能があって、私はしかしそれを意識的に抑えただけのことで、私はそんな本能はつまらないものだと思っている。女は恋人に暴行されたいのだ。男はその契りのはじめにおいて暴行によって愛人のからだと感謝を受ける特権があるということ、田代さんは相談ずくの商売女しか御存知ないから、それに田代さんは通人、いわゆる花柳地型の粋人だから、ずいぶん浮気性だけれども、愛人が厭だといい抵抗するのを暴行強姦するなんてそんなことはやるべからざる外道だと思っている。そして十年一日の如くノブ
前へ 次へ
全83ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング