だすのが、きらい」
「お前という人は、私には分らないな」
「あなたはなぜ諦めたの?」
「だってお前、僕は貧乏なウダツのあがらねえ下ッパ相撲だからな。お前は遊び好きの金のかかる女だから」
「諦められる」
「仕方がねえさ」
「諦められるなら、大したことないのでしょう。むろん、私も、そう。だから、私は、忘れる」
「そういうものかなア」
「つまらないわね」
「何がさ」
「こんなことが」
「まったくだな。味気ねえな。僕はもう生きるのも面倒なんだ」
「そんなことじゃアないのよ。私は生きてることは好きよ。面白そうじゃないの。また、なにか、思いがけないようなことが始まりそうだから。私は、ただ、こんなことがイヤなのよ」
「こんなことって?」
「こんなことよ」
「だから」
「しめっぽいじゃないの。ない方が清潔じゃないの。息苦しいじゃないの。なぜ、あるの。なければならないの。なくて、すまないことなの?」
 エッちゃんは答えなかったが、ノッソリ起きて、閉じられた雨戸をあけて庭下駄を突ッかけて外へでて行った。闇夜なのだか月夜なのだか、私は外のことなど見も考えもしなかったが、エッちゃんは程へて戻ってきて私の胸の上
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