な。そのあなたが、こともあろうに、いけません、同情ストライキ、それはいけない。あなたはあなたでなきゃアいけない。関取、そうじゃないか、サチ子夫人がかりそめにも浮気の大精神を忘れて、処女の美徳をたたえるに至っては、拙者はあなた、こんなところへワザワザ後始末に来やしませんや。私はあなたサチ子夫人を全面的に尊敬讃美しその性向行動を全面的に認める故に犬馬の労を惜しまぬのです。かかる熱誠あふるる忠良の臣民を歎かせちゃアいけねえなア」
 田代さんの執念があまり激しすぎるので、楽な気持になれない。私だったらノブ子さんとは違った意味で許す気持にならないけれども、ノブ子さんは田代さんを愛しもし尊敬もしているのだから、処女ぐらいに、ああまでエコジに守るのが私には分らない。私は実際は、こんなこと、ただうるさいのだ。
 その夜、田代さんたちが別室へ去ってから、
「え、サチ子さん。ノブ子さんは可哀そうじゃねえのかな」
「なぜ」
「だってムッツリ、ションボリ、考えこんでいたぜ。イヤなんだろう」
「仕方がないわ。あれぐらいのこと。いろいろなことがあるものよ、女が一人でいれば」
「ふーん。いろいろなことって、どんなこ
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