弱点で、自分の欠点を知っているから、ちょっとの不利にも自ら過大にシマッタと思う気分の方が強くて、不利な体勢から我武者羅《がむしゃら》に悪闘してあくまでネバリぬく執拗なところが足りないのだ。シマッタと思うとズルズル押されて忽ちたわいもなくやられてしまう。弱い相手に特にそうで、強い相手には大概勝つ。つまり強い相手には始めから心構えや気組が変って慎重な注意と旺盛な闘志を一丸に立向っているからなのである。
私は勝負は残酷なものだと思った。もてる力量などはとてもたよりないもので、相撲の技術や体力や肉体の条件のほかに、そういう精神上の条件、性格気質などもやっぱり力量のうちなのだろうか。有利の時にはちっともつけあがらず、相撲しすぎるということがなく、理づめに慎重にさばいて行く、いかにも都会的な理智とたしなみと落着きが感じられるくせに、不利に対して敏感すぎて、彼の力量なら充分押しかえせる微小な不利にも頭の方で先廻りをして敗北という結果の方を感じてしまう。だから一気に弱気になって、こんなことではいけない、ここでガンバラなくてはと気持をととのえた時には、もう取り返しがつかないほど追いこまれていて、どうに
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