か水を飲ませたあげく腹膜を起させ殺してしまった。そのせいではないけれども、私は母に愛されるたび、殺されるような寒気を覚えるばかり、嬉しいと思ったこともないのである。無智なのだ。私は貧乏と無智は嫌いであった。
私はそのころまったく母の気付かぬうちに六人の男にからだを許していた。その男たちの姓名や年齢、どこでどうして知りあったか、そんなことは私はいいたくもないし、全然問題にしてもいないのだ。ただ好きであればいい、どこの誰でも、一目見た男でも、私がそれを思い出さねばならぬ必要があるなら、私は思いだす代りに、別な男に逢うだけだ。私は過去よりも未来、いや、現実があるだけなのだ。
それらの男の多くは以前から屡々私にいい寄っていたが、私は彼らに召集令がきて愈々出征するという前夜とか二三日前、そういう時だけ許した。後日、娘たちの間に、出征の前夜に契って征途をはげます流行があるときいたが、私のはそんな凜々しいものではなかった。私はただクサレ縁とか俺の女だなどとウヌボレられて後々までうるさく附きまとわれるのが厭だからで、六人のほかに、病弱の美青年が二人、この二人にも許していいと思っていたが、召集解除で
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