いう噂もなかった太宰でもあれくらいだから、悪名高いアンゴは大いにやるべきである。西荻のアンゴ氏がこう判断した心境も分らないことはない。
西荻のアンゴ氏は、ビール一本の三分の一ぐらいで赤い顔になる小量の酒のみで、それ以上は飲まず、常にもっぱら女を口説いたそうである。
一人の女給が、ニセモノを見破っていたそうだ。この女給は西荻アンゴ氏と泊りに行った。帰ってきて、あれはニセモノよ、ホンモノはふとった大男の筈よ、と云ったが、ニセモノかホンモノか追及する情熱はてんでなく、ニセモノを承知で遊んで、ほかの店へクラガエのとき、あれはニセモノよ、ともう一度云い残して、あっさりどこかへ行ってしまったそうである。
西荻アンゴ氏は小量の酒のみであるから、店に借金はないのであるが、多くの女給をやたらと口説いて、泊って、女に金をやらなかったり、女から金を借りたり、つまり日蝕パレスは被害をうけずに、「女給一同より」せしめていたのである。このへんも、手腕の妙であろう。
坂口安吾を名乗って、西荻窪の刑事と握手したことなどもあるそうだから、偉い。ついでに、税務署の役人と握手して、税金をタダにしておいてくれると、もっと偉いのだが、今カラデモオソクハナイ。
底本:「坂口安吾全集 07」筑摩書房
1998(平成10)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文学界 第一巻第一号」
1949(昭和24)年3月1日発行
初出:「文学界 第一巻第一号」
1949(昭和24)年3月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:砂場清隆
2008年4月16日作成
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