以外に考へることができなかつた。谷村は死ぬ怖れに堪へ得なかつた。
 考へすぎてはいけないのだ、と谷村は思ふ。このさゝやかな現実、さゝやかな生命に、精一ぱいのいたはりと愛情だけをそゝがなければ、と。
 然し、谷村は熱烈な恋がしたいと思つた。肉体といふものゝない、たゞ精神があるだけの、そしてあらゆる火よりも強烈な、燃え狂ひ、燃え絶ゆるやうな激しい恋を。その恋とともに掻き消えてしまひたい、と谷村は思つた。



底本:「坂口安吾全集 04」筑摩書房
   1998(平成10)年5月22日初版第1刷発行
底本の親本:「文藝春秋 第二四巻第七号」
   1946(昭和21)年9月1日発行
初出:「文藝春秋 第二四巻第七号」
   1946(昭和21)年9月1日発行
※新仮名によると思われるルビの拗音、促音は、小書きしました。
入力:tatsuki
校正:深津辰男・美智子
2009年6月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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