志賀直哉に文学の問題はない
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)夜鴉《よがらす》
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太宰、織田が志賀直哉に憤死した、という俗説の一つ二つが現われたところで、異とするに足らない。一国一城のアルジがタムロする文壇の論説が一二の定型に統制されたら、その方が珍であろう。奇説怪説、雲の如くまき起り、夜鴉《よがらす》文士や蝮《まむし》論客のたぐいを毒殺憤死せしめる怪力がこもれば結構である。
人間にたいがいの事が可能でありうるように、人間についての批評も、たいがいの事に根がありうるものである。だから蝮論客の怪気焔にも根はあざやかに具り、たゞ、無数の根から一つの根をとりだすには、御当人の品性や頭の問題が残るだけの話である。
太宰、織田が、志賀に憤死したという説にも、根のないことはない。太宰が志賀に腹を立て「如是我聞」を書いたことは事実であり、その裏には、志賀にほめてもらいたいような気持がなかったとはいえない。然しそのことで憤死したとは突飛な飛躍で、帝銀事件の容疑を裏づけるに、こんな飛躍をしたならば、たちまち検事は失格するが、中野好夫教授は教授も批評家も
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