。
すると次に坐り直して、上体をグッと直立、腰をのばし、左手を袂に入れ腰に当て、そのヒヂを張り、右手にタバコを高くかゝげて盤面をにらむ。
庭を眺めて、アクビをしたり、セキバラヒをしたり、急にフラ/\立上つて、ぼんやり庭を見てきたり。
塚田八段は殆どからだを動かさない。概ね膝へ両手をのせ、盤面を見下してゐる。別に気力のこもつた様子ぢやないが、目が疲れてにぶく光り、ショボ/\してゐる。
「どれくらゐ考へたア」
名人がさうきいた。だるさうにタバコをくはへて、かすんだ目で記録係を見た。
「三時間三十三分です」
名人便所へ立ち、戻つてきて、タオルで顔をふき、口の上を押へてゐる。茶をのみ、茶碗を膝の上にだいてる。膝を立て、両手を廻して膝をおさへ、クハヘタバコ、パクパク。坐り直して、袂から左手をさしこみ、腰に当てグッとヒヂを張り、上体直立胸をそらして、
「どれくらゐ考へました」
「二百五十二分です」
そのとき記録員の顔ぢやなしに、頭の上の空間をボンヤリ見て、
「あゝ」
舌つゞみのやうな音を口中に、そして、すぐ指した。五六歩。四時間十三分が終つたのである。塚田八段すぐ同歩。そのとき木村名
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