いたからである。
「ご苦労さまです」
署長が気の毒そうに彼を迎えた。不二男が警察の世話になるのは、これで五度目だ。公安委員という肩書の手前、平作は人の何倍も肩身のせまい思いをしなければならない。
平作は道々思い決して来たものだから、署長を見ると亢奮して云った。
「今度ばかりはつくづく考えました。御先祖様の位牌に対しても顔向けができませんから今度という今度は、思いきって勘当、廃嫡いたそうと思いますが」
「そうですなア。お気持は推察できますが、警察の世話になるような人間には何よりあたたかい家庭が必要なんですな。ここで突き放してしまうと益々悪い方へねじむけるばかりでして」
署長が云いにくそうに言いかけるのを、小野刑事がひきとって、
「勘当なんてことをしたら、箸にも棒にもかからない悪党が一人生れるばかりでさ」
いまいましそうに呟いた。父親の責任を忘れるな、と云わぬばかりの語気が感じられて、平作は思わず気色ばみ、
「警察のお力でドショウ骨を叩き直して貰うわけにいきませんかね。親の手に負えないから、お願いするのだが」
「警察の手に負えなくとも、親の手には負えなくちゃアならん理窟ですな。親の
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