の前日日光行きの切符を買って翌日戻ってきた人間の居ることが分った。これが兵頭清である。
「そうだ。兵頭なら警察で不二男に対面しているから迎えの使者の役目が果せるわけだ。使者は兵頭ときまったぞ」
小野はコオドリして、兵頭の行方をさがして、平作の馬小屋でお加久と共に祈りをあげているところを捕えたのである。
兵頭が白状したので事件は解決した。このお礼に、平作は十万円を投げだして、お加久のためにお堂を立てることになっていたのである。
平作は捕えられたが、黙秘権を行使して一言も物を云わない。たぶん彼はこの世で実現できなかった夢を牢屋の中へ持ちこんでいるのだろう。むしろ牢屋の中での方が、彼の夢は実現し易いのかも知れない。
「オレは王様だ。王様を牢にとじこめるとは何事だ」
彼は時々格子にしがみついて、歯ぎしりして叫んでいるそうである。
底本:「坂口安吾全集 14」筑摩書房
1999(平成11)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「講談倶楽部 第五巻第一〇号」
1953(昭和28)年8月1日発行
初出:「講談倶楽部 第五巻第一〇号」
1953(昭和28)年8月1日発行
入力:tatsuki
校正:藤原朔也
2008年5月10日作成
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