美しいからだであつた。腕も脚も、胸も腰も、痩せてゐるやうで肉づきの豊かな、そして肉づきの水々しくやはらかな、見あきない美しさがこもつてゐた。私の愛してゐるのは、ただその肉体だけだといふことを女は知つてゐた。
女は時々私の愛撫をうるさがつたが、私はそんなことは顧慮しなかつた。私は女の腕や脚をオモチャにしてその美しさをボンヤリ眺めてゐることが多かつた。女もボンヤリしてゐたり、笑ひだしたり、怒つたり憎んだりした。
「怒ることと憎むことをやめてくれないか。ボンヤリしてゐられないのか」
「だつて、うるさいのだもの」
「さうかな。やつぱり君は人間か」
「ぢやア、なによ」
私は女をおだてるとつけあがることを知つてゐたから黙つてゐた。山の奥底の森にかこまれた静かな沼のやうな、私はそんななつかしい気がすることがあつた。ただ冷めたい、美しい、虚しいものを抱きしめてゐることは、肉慾の不満は別に、せつない悲しさがあるのであつた。女の虚しい肉体は、不満であつても、不思議に、むしろ、清潔を覚えた。私は私のみだらな魂がそれによつて静かに許されてゐるやうな幼いなつかしさを覚えることができた。
ただ私の苦痛は、こ
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