を流してくることがあつた。ガサツな慌て者だから、衝突したり、ひつくり返つたりするのである。そのことは血を見れば分るけれども、然し血の流れぬやうなイタヅラを誰とどこでしてきたかは、私には分らない。分らぬけれども、想像はできるし、又、事実なのだ。
この女は昔は女郎であつた。それから酒場のマダムとなつて、やがて私と生活するやうになつたが、私自身も貞操の念は稀薄なので、始めから、一定の期間だけの遊びのつもりであつた。この女は娼婦の生活のために、不感症であつた。肉体の感動といふものが、ないのである。
肉体の感動を知らない女が、肉体的に遊ばずにゐられぬといふのが、私には分らなかつた。精神的に遊ばずにゐられぬといふなら、話は大いに分る。ところが、この女ときては、てんで精神的な恋愛などは考へてをらぬので、この女の浮気といふのは、不感症の肉体をオモチャにするだけのことなのである。
「どうして君はカラダをオモチャにするのだらうね」
「女郎だつたせいよ」
女はさすがに暗然としてさう言つた。しばらくして私の唇をもとめるので、女の頬にふれると、泣いてゐるのだ。私は女の涙などはうるさいばかりで一向に感動しな
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