を流してくることがあつた。ガサツな慌て者だから、衝突したり、ひつくり返つたりするのである。そのことは血を見れば分るけれども、然し血の流れぬやうなイタヅラを誰とどこでしてきたかは、私には分らない。分らぬけれども、想像はできるし、又、事実なのだ。
 この女は昔は女郎であつた。それから酒場のマダムとなつて、やがて私と生活するやうになつたが、私自身も貞操の念は稀薄なので、始めから、一定の期間だけの遊びのつもりであつた。この女は娼婦の生活のために、不感症であつた。肉体の感動といふものが、ないのである。
 肉体の感動を知らない女が、肉体的に遊ばずにゐられぬといふのが、私には分らなかつた。精神的に遊ばずにゐられぬといふなら、話は大いに分る。ところが、この女ときては、てんで精神的な恋愛などは考へてをらぬので、この女の浮気といふのは、不感症の肉体をオモチャにするだけのことなのである。
「どうして君はカラダをオモチャにするのだらうね」
「女郎だつたせいよ」
 女はさすがに暗然としてさう言つた。しばらくして私の唇をもとめるので、女の頬にふれると、泣いてゐるのだ。私は女の涙などはうるさいばかりで一向に感動しないたちであるから
「だつて、君、変ぢやないか、不感症のくせに……」
 私が言ひかけると、女は私の言葉を奪ふやうに激しく私にかぢりついて
「苦しめないでよ。ねえ、許してちやうだい。私の過去が悪いのよ」
 女は狂気のやうに私の唇をもとめ、私の愛撫をもとめた。女は鳴咽し、すがりつき、身をもだへたが、然し、それは激情の亢奮だけで、肉体の真実の喜びは、そのときもなかつたのである。
 私の冷めたい心が、女の虚しい激情を冷然と見すくめてゐた。すると女が突然目を見開いた。その目は憎しみにみちてゐた。火のやうな憎しみだつた。

       三

 私は然し、この女の不具な肉体が変に好きになつてきた。真実といふものから見捨てられた肉体はなまじひ真実なものよりも、冷めたい愛情を反映することができるやうな、幻想的な執着を持ちだしたのである。私は女の肉体をだきしめてゐるのでなしに、女の肉体の形をした水をだきしめてゐるやうな気持になることがあつた。
「私なんか、どうせ変チクリンな出来損ひよ。私の一生なんか、どうにでも、勝手になるがいいや」
 女は遊びのあとには、特別自嘲的になることが多かつた。
 女のからだは、
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