パンスケだと申しますから、あんなに可愛らしくッて、ウブらしいのに、金さえ出しゃ物になる女だな、とこう思いまして、取引してみたら、案の定でさア。けれども知ってみると冷めたくって、情があって、こう、とりのぼせまして、エッヘ。どうも、すみません。頭のシンにからみこんで、寝た間も忘れられたもんじゃ、ないんです。よろしく一つ、御賢察願いまして、仏力をもちまして、おとりもちを願い上げます」
「バカにしちゃア口上がうまいじゃないか。冷めたくって、情があってか。なるほど。ひとつ、仏力によって、とりもって進ぜよう」
ノンキな和尚であった。彼はドブロクづくりと将棋に熱中して、お経を四半分ぐらいに縮めてしまうので名が通っていたが、町内の世話係りで、親切だから、ウケがよかった。
お寺の裏のお尻をヒッパタかれたパンスケというのは、大工の娘で、ソノ子と云った。終戦後父親が肺病でねついてしまって、ソノ子は事務員になって稼いだが、女手一つで、病父や弟妹が養えるものではない。いつとはなく、パンスケをやるようになった。外でやるぶんには、よかったが、時々、家へ男をひきこんでやる。
とうとう病父がたまりかねて、ソノ子をとらえて、押し倒して、お尻をまくりあげて、ピシピシなぐった。なぐりつゝ、吐血し、力絶えて、即死してしまった。ソノ子はオヤジを悶死させた次第であった。
そのセッカンのすさまじさというものは、それがイノチの終りの激しさを現したのかも知れないが、近所の人々がとびだして見物にきた程であった。呆気にとられる人々の眼前で、彼は全力をだしきってソノ子のお尻をヒッパタいて、ことぎれてしまった。
「病人はヒステリーになるものだ」
と云って、物分りのよい和尚はお通夜の席でソノ子をかばってやったものである。
「ほかに感謝の現しようもないので、お尻をヒッパタいたんじゃ。人間はそんなもんさ。ホトケは感謝しているのだよ」
誰もなんとも言わなかった。
「これよ。お前のお尻は可愛いゝお尻だよ。オヤジの寿命を養い、薬代を稼いだ立派なお尻だよ。なにも恥じることはないさ」
まったく可愛いゝお尻だろうと思われた。小柄で、痩せぎすであったが、胸やお尻には程よい肉がムッチリしていて、見るからに情慾をそゝるのである。和尚の様子が、今にもソノ子のお尻をさすりそうな感極まった情愛がこもって見えたので、人々は妖しさに毒気をぬかれ
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