とはハッキリ云ってもらわないと迷うんだよ」
「それはハッキリ亭主ですとも。しかし、肉体上の関係は、精神的な関係とはツナガリがないものですよ」
「そういうものかね」
「そういうものです」
「彼女だけについてはね。オレもそんな気がしてきたからね。まったく先祖の大婆サンに会ってるような気がしてきたからさ。しかしどうも、変な世界があるものだね。あの振袖まで先祖の大婆サンの衣裳のように見えてきたから奇妙じゃないか」
「あなたはさすがに物分りがよろしいです」
 そこへ振袖の大婆サンがイモのふかしたのを運んできてくれた。彼女はすでに物分りがよかった。今日は客人をもてなす日なのだ。都会の虫ケラをも亭主の昔の仲間として、いたわってくれるつもりなのである。
「たんとおあがり」
「うむ、これはうまい!」
 野村はつかえがおりたような気持になった。遠慮というものを忘れたような解放された気持になったのである。くさりかけたイモであったが、食慾はフシギに衰えなかったほどである。
「しかし、もう再び来るところではないな」
 とイモを食いあいた時に思ったのである。虫ケラの生活にもさしたる魅力があるわけではないが、先祖の
前へ 次へ
全29ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング