が覚めて、彼はクラヤミへ突き落された。十六の年から忘れていた寝小便をたれてしまったのである。
なんたる大量であろうか。フトンいっぱいの洪水だ。そして、なんたる悪臭だろうか。それは何年ぶりかで存分に晩酌をとったせいで、尿に臭気がこもっているのである。彼は神様の使者にふんづけられて魂をぬかれたとき、いつも自分一人だけが悲しい思いをしなければならなかった少年の頃を痛切に思いだしていたのである。少年時代への切実な回想とともに、寝小便も十六歳へもどったのかも知れなかった。
起き上ると、サルマタや腹のまわりに溜っていた小便がドッと流れて、フトンの下へあふれ出ようとした。彼はあわてゝシキフをもたげたが、それから先は為《な》す術《すべ》を失い、途方にくれて、クッという声をたてると、手ばなしで泣きだしてしまったのである。
「どうしたの? お父さん」
物音をきゝつけて、半平が襖をあけて顔をだした。事情をさとると、物に動ぜぬ半平も、しばしは茫然たるものであった。
「ふーん」
半平は感心して一唸りしたが、もう気をとり直してニコニコしていた。
「そうかい。お父さん、オネショの癖があったの、言っといてくれ
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