ルフォナールという強い催眠薬を毎日ドッサリのませて、昏々とねむらせて下さったのです。その期間に、食事もとるし、便もとり、時には話も交すことがあっても、夢うつつで記憶にないということを先生も仰有ってましたが、時々あたりまえに話をなさるので、マサカと思っていました。しばらく前に服薬を中止して、葡萄糖の注射で眠りをさましていましたから、今日、明日ごろ、正気にかえると先生のお話でしたが、本当に全快なさったのよ」
「信じられん。ここは箱根だろう」
「イイエ。東京です」
「嘘だろう。ちょッと、今日の新聞を見せたまえ」
 妻の手から新聞をうけとると、彼はほかを見ずに、日附を見た。
 ああ、たしかに一ヵ月半もすぎている!
「どうも、わからん。一ヵ月半。いや、二ヵ月ちかくも」
「そうですよ。その間中、ねてらしたのよ。そして全快なさったのよ」
「全快って、いったい、何が?」
「今はおききにならないで。そんなこと、なんでもありませんのよ」
「しかし、お前たちは、どうして、ここに来たのだ。そして、どこに泊っているのだ。お金は、どうしている?」
 彼の妻は、又、泣いた。
「親切に、報らせて、呼びよせて下さった方
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