名も、それぞれの使者に蹴倒される。
「キサマらの魂には、まだ曇りがあるぞ」
 蹴倒しておいて、踏みつける。
 と、白衣の連中、それをかこんで円をつくり、
「マニ妙光。マニ妙光」
 高々と手をすり合わせて、合唱し、グルグル廻りをはじめる。ミコが鈴をふって駈けこんできて、列に加わる。太鼓や琴の奏楽が起る。
 三十分ほど踏みつけて、失心状態になったころ、奏楽が終った。
 魂に曇りがあるワケではない。これはマニ教の常套手段である。
 神の術を施す先に、先方が術にかかってきたから、内々ほくそえんだが、さすがに神様は慎重である。オイソレと、とびつきはしない。
 それから一週間にわたって、念入りに三人の魂をぬきあげる。しかし、円陣の合唱行列や奏楽が加わったのは、信徒の列に許されたシルシ。
 魂のぬかれた状態には一定の目安があるから、経験深い神の使者が度をはかっているのである。
 天草次郎の発狂ぶりにホッと気のゆるんだ光秀と半平は、もう自律性を失い、次郎次第、暗示の通りにうごく。
 次郎も長々の拷問折檻に衰え果てゝいるから、自分を半狂乱状態にみちびくことはなんでもない。自己催眠自在の境地である。
 神様の使者の慎重な試験を滞りなく通過することができた。
 大喜びなのは、神様の一族郎党で、大半の信徒を失い、箱根山中にとじこもって、ほかに住むべき屋根の下もないところへ、東京のマンナカへ進出できることにあった。三階建の社屋から、大庭園をそなえた寮から、社長の私宅まで意のままに使用できるし、天草商事の全事業を手に入れて、自由に運営できる。
 この建物が全部抵当にはいっており、つめかけてくるのは借金とりばかりとは気がつかない。
 三人の魂をぬきあげたりと見すまして、東京遷座の用意にかかる。
 サルトル・サスケがやってきて、
「東京へ御遷座の由、おめでたき儀で、慶賀の至りに存じあげます」
「イヤ、これもお前の働きによるところであるから、過分に思うぞ。石川長範は健在であるか」
「ハ。実はワタクシ石川組を円満退社いたしまして、その後は石川社長にも御無沙汰いたしております。本日参上いたしましたのは余の儀ではありませんが、御遷座に当って、かの正宗菊松をお下げ渡し願いたいと存じますが」
「ヤ。あの男ならば、もはや用はない。当方も処置に困っていたところであるから、遠慮なく連れて行くがよい」
「これは有りがたきシアワセに存じあげます。御遷座の上は、ワタクシも東京におりまするから、御用の折は遠慮なく申しつけて下さいますよう。フツツカながら、犬馬の労をいといません」
「ウム。信徒に非ずとはいえ、お前の志のよいところは神意にかのうている。時々遊びにくるがよい」
「ハハッ。ありがたきシアワセに存じ上げ奉ります」
 と、サルトルは目的を達し、正宗菊松をつれだして、東京へ帰ることができた。
 一方、天草次郎によびよせられた在京の幹部連中、痩せさらばえて額面蒼白、目玉に妖光を放つ社長から神示をうけ、東京へとって返して、数台のトラックを苦面する。
 このトラックに幔幕をはり、神具はじめ家財一切つめこみ、信徒が分乗し、合唱奏楽高らかに東海道を走って、東京へのりこむ。
 天草商事へ横づけにすると、直ちに社長室を神殿にかざりなして、奏楽合唱礼拝をはじめる。
 社員一同を廊下にひれ伏させて、事業一切神の手にうつった旨を申しきかせ、社員は同時に信徒たり、下僕たる旨をも申し渡す。
 ズラリとひれ伏した社員の頭上を幣束《へいそく》が風を切って走り、ミコの鈴が駈け去り駈け寄り、合唱がねり歩く。
 三羽烏、いずれも蒼ざめはてて、目のみ光り、狂人以上にただならぬ様子だから、社員もゾッとした。
「なア、オイ。ウチの社長のような、ガッチリズムの冷血動物がマニ教になったかねえ。わが社をそッくり奉納したには困ったな。我々は神の下僕だとよ」
「笑ってちゃ、いけないよ。神の下僕、信徒ときたからには、月給は払わないぜ」
「なるほど」
「雲隠の奴に百万円だまされて、キミもたしか、貯金をおろしたようだが」
「ワッ。いけねえ。オイ、ふざけるな。かえせ」
「オレに返せたって、ムリだよ」
「ウーム」
 一同、目を白黒させている。
 とっぷり日の暮れるまで、社員はマニ妙光の合唱をやらされる。夜になると、一族郎党、神様をまもって、再びトラックに分乗し、神殿に定められた寮へ落ちつく。三羽烏もここへ泊められて、自宅へ帰してもらえない。
 その翌日から、各新聞の賑やかなこと。妙光様と天草商事で持ちきりだ。そのくせ、マニ教の神殿は、信徒以外に侵入を許さないから、借金とりの苦心も実を結ばない。
 こうして神様の陰にかくれて、天草次郎はユックリと起死回生の策をあみだすツモリであったが、碁や相撲のように個人の天分だけで復活できる世界とちがって、
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