あるか」
 なるほど、その魂胆か、と才蔵は呆れたが、そんな荒行にマキゾエくっては、たまらない。チェッ、部隊長みたいなことを言ってやがる。オレは戦地へ行っても、戦争しないで、満腹している性分なんだ、と才蔵は内々セセラ笑ったが、それは色にもださず、泣き出すフリをして横目でウインク。
「ボクは死ぬ気にゃ、なれないよ。そうじゃないか。ボクにまかしてくれよ。キミがまかせなくったって、ボクは一存でやりぬくよ。こんな苦しみをするぐらいなら、何百万円だって高くはないよ。ヤセ我慢したって、はじまらないや。マニ教の皆さん。たのみます。上の方にとりついで下さい。ボクを東京へやって下されば、御満足のいくようにはからいます」
 才蔵め、自分だけ脱けだす気だな、と天草次郎は察したが、音をあげる奴をムリにひきとめても、敵に見すかされるばかり、かえって足手まといであるから、ジロリと睨みつけただけで、あとは口をきかない。
 才蔵は、しすましたり、と、ここをセンドと、泣きつ、もだえつ、懇願、又、懇願。
 願いかなって、大臣のもとにひきたてられた。
「不敬者め。神の怒りの程が肝に銘じおったか」
「ハイ。深く肝に銘じました。あとの三人はまだ肝に銘じないようですが、あんな不逞のヤカラと同列にされては困ります。こんな苦しみをするぐらいなら、財産半分なくした方がマシです。どんな条件でも果しますから、東京へやって下さいな」
「本日中に五百万円もってくるか」
「五百万円ぐらい、わが社の一日の利益にすぎません。こちらの取引銀行は?」
「コラ! キサマ、デタラメ云うな。毎日のように社員が日参しおって、同じ返事をきいて帰りながら、すでに一週間もすぎるのに、一文の金を持参したこともないではないか」
「それは当り前です。なぜって、わが社の幹部全員がここに監禁されていますから、あとに残された連中は金を動かすことができません。ボクが帰れば五百万でも一億でも平チャラです。使者の社員も、かならず、そう申し上げていることと思いますが」
「キサマ一人で、マチガイなく、できるか」
「できますとも。二人三人の人手のかかる仕事ではありません。第一、ほかの三人が不逞の心を改めるまで待っていたら、皆さんもシビレがきれてしまいます。あの三人のガンコなことときたら、話になりません」
「今日中に戻ってくるな」
「戻ってきますとも。五百万円ぐらいには代え
前へ 次へ
全79ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング