かるべからずさ。ツルちゃんの高潔なる人格と聡明なる才腕を信用してあげることが必要ですよ。では、ツルちゃん、良き旅行を祈ります。明日、午後二時には、ボクが小田原へ迎えに行きますからね」
 こう、はげまされ、握手を交して送りだされる。
 ツル子はバカバカしいばかりである。なんの不安もないからだ。箱根へ行って、サルトルに会えるほど安心なことはなかった。

   その十四 サルトル改心のこと

 ツル子の報告をきいて、サルトルは大笑い。
「アッハッハ。そんなことだろうと思って、もう、イタズラしておきました」
「なにを、なさったの」
「明日、お歴々、あそこを掘ると、アッと驚きます。慾深い人が穴を掘って、よかったタメシはありません。どうしても、私のところへ、智恵を借用に来なければならなくなります」
 ツル子はジッと考えた。もう、これ以上、我慢ができない。変に策を弄するよりも、体当り、サルトルのマゴコロに訴えるにかぎるのだ。さもなければ、悲しい思いの絶え間がない。
「サルトルさん。もう、悪事は、よして」
「エッ。悪事?」
「ええ、悪事よ。今、なさっていること、悪事よ。人をだまして、お金をもうけては、いけないわ。そんな二千万円よりも、二千円のサラリーがどれくらい尊いか知れないわ」
「それは、仰有る通りです」
「天草商事の悪者たち、二千万どころか、二千円だって、支払うものですか。泥棒ですもの」
「まさに御説の通りですとも。それゆえ、雄心ボツボツ。支払う筈のない旦那方に、必ずや支払わせてみせるというタノシミが生れてくるのですな」
「そんなの、ヤセ我慢の屁理窟よ。悪者をこらしめるのは結構ですけど、こらしめるだけでタクサンだわ。お金もうけをそれに結びつけるなんて、卑怯な考え方よ。たぶん、高利貸の思想よ」
「なるほど」
「あなたは、もっと、立派な方です。正しい方法で、成功できるお方なのよ。同じ努力ではありませんか。ギャングのスリルを愛すなんて、よこしまな人生よ」
 リンリンとせまるツル子の気魄。その瞳にするどく光り閃くものは、怒りでも、恨みでもない。乙女の祈りが切々として燃え閃いているのだ。
 ツル子の高貴な魂がサルトルの胸にくいこんでくる。彼女の四辺《あたり》には冷めたく冴えた香気があふれているようだ。このサルトルは虚無党でもなく、木石でもない。一目見たときから心を惹かれ、知れば知るほど香
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