生みたいな支配人、無給だつて雇ふものですか」
「さう言ふものぢやアないよ。それはオレはハキダメから料理をつくる腕はないけど、タヌキ屋の店なら一夜に平均してカストリ二斗、これだけは請合ふ自信があるです。カストリ二斗といふ請負ひ制度で行かうぢやないか。二斗以上の純益は私のもうけ、二斗以下の日は私の給料から差引く。いかゞです」
「お勘定」
「いけねえなア。最上先生、たまに会つて、呆気なく別れたんぢやア、首くゝりに出かけるところを引きとめなかつたみたいで、寝ざめが悪いよ」
「僕は商用にきたんだ」
「相すまん。最上先生の商用を茶化すわけぢやアないんで、あはよくば私も一口と思つたんだが、オコウちやんが相手ぢやア。こんなところへ商用に来るてえことが、最上先生は決定的に商才ゼロですよ。こゝに於て商談は中止に及んで、もつぱら飲みませう。首くゝりも最上先生の商談のうちでせうから、すでに拙者はとめないです。首くゝりも商用てえのは、意気だなア。首くゝりが意気てえわけぢやないけれど、人生、なんでも商用、なんでも金談てえのが、たまらねえな。然し、だんだん身の皮をはいで首くゝりへ近づいて行く商用てえのはあんまりイタ
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