第一にお金が足りない。飲みすぎて足をだすから、ピイピイしてゐる毎日が多く、闇屋みたいなこともやるが、資本を飲むから大闇ができず、人に資本をださせ口銭をかせぐぐらゐが関の山で、何のことはない、大望をいだきながら徒に他人の懐をもうけさせてゐるやうなものだ。あそこの赤新聞で紙を横に流したがつてゐるといふ。それ、といふので駈けつけて売値をたしかめ、それから諸方の本屋につてを求めて買手をさがして、東奔西走、忙しくて仕方がなくても、売手買手、両雄チャッカリしたもので、口銭はいくらにもならない。
 彼はどうしても資本家にはなれないといふ性格で、さうかといつて社員には尚さらなれない。諸方の会社や資本家にわたりをつけておいて、儲け口を売りこむといふ天性の自由業、まともなことは何一つできない。
 さすがに然し女はたくさんある。タヌキ屋へ女をつれてきて、御両名の見てゐる前で堂々と口説いて、あつぱれ貫禄を見せたこともあるけれども、浮気などゝいふものはハタで見るほど面白をかしくないもので、何のためにこんな下らないところに金を使つちまつたんだか、せつかく骨身をけづつた金をと後悔に及ぶやうなことばかり、イヤ人生は断
前へ 次へ
全163ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング