トンネルを境にこの太陽が必ずおさらばなんだからね」
 と念をおして言いきかせ、また
「冬の新潟のもう一つの特色は見はるかす水田が満目の湖水と化していることだ。農民たちは小舟に乗ってとりいれするものだよ」
 と説明に及んでいたものだった。ところがトンネルをでても太陽がかがやいている。関東側よりもむしろ澄みきった太陽が雲一つない青空にさんさんとかがやいている。また越後平野の水田は湖水どころか一滴の水もない。秋の旅も冬の旅もそうだった。そして旅行中の連日にわたっていつも頭上にまぶしい太陽がかがやいていたのだ。
「昭和二十三年以来こうなんです。一月のなかばまでは東京の冬と同じようにいつも太陽がかがやいています。雪が降りだすのは一月なかばすぎてからですね」
 土地の人々がこう教えてくれた。私がこの土地で育ったころは一冬中海鳴りが町まできこえていたものだ。その海も波一つない湖水のようで一冬吹きつける北風すらもなくただ海も浜も砂丘も一面にまぶしく光っているだけであった。
 私が育ったころでも大雪の降りだすのは一月なかばをすぎてからでそれだけは変りがないが、十月なかばからそれまでというものはずっとしぐ
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