。あんなことのあとで、また来るなんて、死神がついてるわよ。ヤミ屋も食えなくなったし、強盗でもやってんだろ」
「幻想がよくつづくわねえ」
「ピストルぶッ放すんなら、私の居ない日にしておくれ」
 ヤエ子は叫んで、にわかにフトンをひッかぶったが、ルミ子は薄笑いをうかべながらフトンをまくってのぞきこみ、
「アドルム、おのみ」
「うるさいッ」
 フトンをひッたくって、もぐりこんでしまった。
 青木はここへくる道々、放二から彼のアパートのあらましのことをきいてきたので、彼女らの素姓については察しがついたが、放二とのツナガリについては、雲をつかむようである。したたか酔ってもいた。
「君の奥さんは、どの人なんだい」
 青木の声が高かったので、ヤエ子が再びモックリとフトンから首を起して、
「あの人よ」
 ルミ子を指して、イライラと叫んだ。
「怒るわよ」
 ルミ子はちょッと鋭い目でにらんだ。
 放二は頃合と察して、
「ルミちゃん。今夜、この方を泊めてあげられる?」
「ええ。どうぞ」
 ルミ子は苦笑して、
「昨日も、今日も、か。なんだか、変ね。フジちゃんに悪くないの」
「アタイは浮浪者だもん」
 フジ子はア
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