ぼくたちの心の持ち方は、どうも、変だ。不自然ですよ。本心にピッタリしないところがあると思うな。ぼくたちは味方ぶりすぎやしないか。不当に憐れみたがってるよ。ねえ、奥さんや。ぼくは君を売る。君もぼくを売りたまえ。めいめいが自分だけの血路をひらいて逃げ落ちようや」
 しかし青木は目に憐れみをこめて、
「なア、奥さんや。あんたは大庭君にふられちゃこまるじゃないか。しッかりやッとくれよ。君自身の血路のためにさ」
 すると礼子に生き生きと色気がこもった。
「大庭さんは私を愛しています。盲目的に。あの方は私のトリコなのよ」
 あんまり自信に溢れているので、放二は目を疑ったが、青木は多くの物思いに混乱した。礼子はさらに生き生きと断言した。
「大庭さんは、もう、私から逃げることはできないのよ。クモの巣にかかったのです」

       三

「あなたの梶せつ子さんは、どう? うまく、いってますか」
 礼子が、かわって、青木を見下していた。青木が威勢を見せたときは、ありあり虚勢が見えすいていたが、礼子には、それがなかった。心底から落ちつきはらっているようである。
「そう。実は、そのことでね」
 青木は素直
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