生命慾との差引勘定にしたがって、余の行動を決せざるを得ない。よって余は汝を見すてて逃げ去るであろうが、汝これを諒せよ。こう事をわけて返答してもいられませんよ。あなたの場合も、これに類する場合です」
こんな屁理窟を言いながら、礼子の言い方があんまり身勝手で非常識だから、イライラしながら、妙にさしせまった色気にもむせたりした。
十
礼子はながく無言である。
別居のイキサツはまだ何一ツきいていないが、きいたところで、どうなろう。もう会見は終るべきだ、と長平は思った。
「ぼくの年齢になると――あながち年齢のせいではないかも知れませんが、恋愛なんて、もう面倒くさくてダメなんです。浮気の虫は衰えを見せませんが、恋に生きぬくなんて気持はもはや毛頭ありません」
長平は一方的に心境を語りはじめた。礼子の一方的な愛情の押しつけに対するシメククリの返答としてであった。
「女房に満足してる亭主はいないものですよ。世界中の女をテストして女房を選ぶわけじゃなし、かりに偶然世界一の女房に当った男がいても、よその花に憧れるのは自然の情ですから。そこで、正直によりよき恋人をもとめると、次々と、
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