いうんですから、おだやかならん表現ですね。なにをか云わんや」
 礼子はそれに答えずに、考えこんだ。
 顔をあげて、長平の目を見つめたが、
「私、どうすれば、よろしいのでしょう」
 ジッと見つめて、視線は放れない。屁理窟ではごまかされませんと、礼子の気魄が語っている。しかし、こんな気魄というものは、いわば非常時的なもので、平時の心がこれをマトモに相手にすると、無用な傷もつくらねばならない。一方的な気魄よりは、空論の方が、まだマシだ。長平は空々しく、
「御自分で、おきめなさい」
 いと簡単に突ッぱねる。
 そんな言葉は相手にしません、と礼子の全身の気魄も語っている。
 一段と、たたみこんで、
「私が無用な存在だとおッしゃって下されば、私は死にます」
 視線は益々放れない。
 しかし、長平も、たじろがなかった。
「会話というものは、急所にピンとふれていなくては、こまるものです。ぼくたちの場合、急所がどこにあるか、先ずそれを考えようではありませんか。急所はずれのキワドイ文句を述べ合ったんじゃ、カケアイ漫才じゃありませんか」
 まさしく茶番にほかならない。かほどの茶番を自覚しない礼子のリリしさ、
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