ができたから喜んでくれッて」
「まさか」
「じゃア、大きなお世話じゃありませんか。人の色話はよしましょうよ。もっとも、口惜しい、というのなら、ま、ごもっとも、合槌ぐらいうつ気持にはなれますがね」
「私、ホッとしましたのよ。どなたか見てあげなければ、青木は淋しくって、やってけない人なんです」
礼子は言いはった。強情なところはなくて、素直でシミジミした述懐のようだった。
別れた妻としてはそうあるべきかも知れないが、長平の気持には、ひッかかった。要するに言わない方がよい性質のキザな文句だ。
礼子は長平のヒガミ根性にはとりあわず、放二に向って、
「梶せつ子さんて、どんな方? 物ごとをテキパキ手際よく処理なさる方? そして、それが容姿にあらわれて、スラリと、小牛ぐらいも大きくてユッタリとしたペルシャ犬のような方かしら」
「そうかも知れません。ペルシャ犬は知りませんが」
「義理人情に負けない方。しかし、どっちかと云えば、あたたかい感じ。表面はね。姐御肌、いえ、女社長タイプというのね。あわれみ深いんだわ。恋人をあわれむけど、愛せない方。恋人は愛犬。そして、本物の犬はお嫌いでしょう、その方」
「
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