ければ、彼女の本当の生活は生れやしない。
 言葉で言ってきかせてもダメ。短期に功をねらってもダメだ。長期の時間を覚悟して、ある特定の環境の中で、身の程を思い知るまでジリジリ待つことである。平凡な男と平凡な結婚生活をねがうようになるまで――それが彼女の性格や智能に最も適合した生活なのである。
「なア。記代子さん。京都へ帰ろうよ。ぼくがお供しますよ。なに、社長邸をとびだしたって、家出でもなんでもありゃしないよ。あなたの家は京都にあるのさ。ね。長平さんは怖いオッツァンのようでも、人間の本心にふれてくれるよ。今まではあなたに分らなかったが、ぼくと一しょにこれから帰ってみると、よく分るです。ね。すぐ京都へ行こう。一分一秒も早く。こんな東京なんか、すてちまうのさ。ぼくは京都まで安全にお送りして、すぐ戻りますよ。旅行の支度をしてくるから、三十分だけ待ってて下さい」
 記代子を承諾させて、青木は大急ぎで宿へ戻った。

       七

 青木が宿の前までくると、せつ子の自家用車がとまっている。シマッタと思ったが、もうこうなったら、逃げ隠れはしない方がよかろうと覚悟をきめた。
 玄関をはいると、せつ子
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