の会見は、長平のきゝなれない、豪勢らしい料亭が指定されていた。
礼子は一別以来の尋常な挨拶を終ると、放二の方にチラと目をやって、
「こちら、北川さん?」
「そうです。在京中は形影相伴う血族ですから、お心置きなく」
青木が放二のことを説明しておいたのだろうと思うから、長平は気にとめず、答えたが、実際は、意外千万な意味があった。しかし、そのときは、わからなかった。
営業前の薄暗い酒場というものは、坐り場所に窮するような落付かないものだが、礼子はむしろそうでもなく悠々と見まわして、
「ここ、カフェーというんでしょうか? バーですか。キャバレーですか」
「バーというんでしょうね。定義は知りませんが、洋酒を最も安直にのませるところです」
「女給さんは?」
「おります」
一方的に思いつめて、そのために離婚までして、手紙では事足らず、遠く京都まで三度もムダ足を運んでひるまない礼子。ひたむきに思いまどって何の余裕もないかと思えば、長平よりも落ちつきはらって、静かに四囲を見まわしている。そして、究理の学徒がするような冷静な態度でくだらぬ質問をしている。礼義とか外交手腕じゃないようだ。余裕がありす
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