スもね。エッヘ」
 最後のワイセツな言葉と笑いは、長平にあびせかけたものである。
 とうとう虎の子のありかを探しだした。銀行の通帳と一万円余の現金であった。彼女は行李の中のものを片づけて、
「これがキモノか。これがジュバンだ。このフロシキに包んでやれ。ヘッ。ズロースと、お腰も持ってッてやろうかな」
 と、又、長平に嘲笑をあびせかけて、包みをかかえて悠々と消えてしまった。
 風呂から戻った一同は、これを知って、被害者のルミ子よりも顔色を失った。
 ヤエ子の宿命と自分たちの宿命が、遠く離れたものでないことを、彼女らは身にしみて知っていたからである。ヤエ子は追われて立ち去ったのだ。追われる圧力を彼女らも身にしみている。まだしもルミ子の物を盗んだヤエ子は賢明だ。彼女らの心にうごいたものは、羨しさであった。

       十二

 長平はヤエ子の泥棒ぶりに感心した。よほど天分があるようだ。痛快になめられたものであるが、腹をたてる余地がない。
 彼の存在を眼中になく、行李をあけて十分ちかく金品を物色した落付きというものは、水際立っている。このとき彼の存在というものは、地上で最もマヌケ野郎に相違な
前へ 次へ
全397ページ中344ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング