の方を見向きもしなかった。
記代子には信じられないことであった。
「エンジェル! エンジェル!」
たった二、三間の距離である。たった一声で、ノドがつぶれてしまいそうな、この叫びがきこえない筈はない。しかしエンゼルはふりむいて、姿は見えなくなってしまった。
エンゼルは、わざと聞えないフリをしてみせたが、身仕度して、きっと迎えにきてくれると思った。十分間も窓からのぞいていたが、次に窓から見たのは子分の顔であった。彼は記代子を睨みつけた。
記代子は気を失ったように、ふらふらと崩れこんでしまった。
六
外から心ばり棒を外す音に、記代子はハッとして飛び起きた。やっぱりエンゼルが迎えにきたと思ったのである。
しかし、姿を現わしたのは、二人の子分であった。一人は彼女の前へお握りを入れた皿と一杯の水を置いて、
「バカ。ウチが割れるような大声をだしやがる。二度とあんな声をだしやがると、腰の抜けるほど、なぐりづけるから、そう思え」
一人は窓をしめて、
「まったく、頭の悪い女さ」
そうつぶやいて、又、心ばり棒をかけて立ち去った。
日がくれると、多くの跫音がドヤドヤと入りみ
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