だが、うけつけようともしないのだから」
「それで、君から、百万ぐらい都合してやれないかね」
長平は呆れて旧友をうちながめた。海野に悪意はないのである。彼は書斎人の一徹で、何か一方的に思いこんでいるのである。
一日か二日がかりで言葉をつくして説明すれば、半分ぐらい説得できるかも知れないが、そうまでして、この単純に思いこんだ書斎人を説得する根気もなかった。
「その話なら、うちきりにしよう。君は事情を知らないのだし、ぼくも君のために事情を説明したいとは思わない。第三者が介入すべきことではないよ。話があれば、青木とぼくが直接するにかぎるのだから」
と、それ以上、ふれさせなかった。
しかし、それがキッカケとなって、この上京中に、青木と会うことになったのである。
長平の気持は複雑であった。しかし、青木はそれ以上にも複雑で、悲しさに打ちひしがれているのかも知れない。ただ虚勢だけで持ちこたえているのかも知れなかった。
長平はその青木をいたわるべきだと思いながら、なんとなく不快であり、万事につけて腑に落ちなかった。
四
青木と礼子の別居が、どの程度のものだか、それすらも見
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