前から、隣り町はそんな焼け野原であったような気持になるのであった。
 駅前の繁華な商店街を、疎開で叩きつぶす。そこは三日前までは一パイの半ジョッキのビールのために毎日行列していたところだ。日毎の生活に何よりも親しかった街の姿がコツネンと消えて三日目には、遠い昔から、そこが今のような空地でしかなかったような気持になっているのだ。
 戦争が始まるまでは夢にも考えていなかった時間感覚の狂った喪失状態があらゆる人々に襲いかかったのである。
 戦争が終ってからは、尋常な感覚をとり戻したけれども、感覚異変は、まだ多少は残っている。
 そして、せつ子が自家用高級車を乗りまわして二ヶ月にしかならないのに、二年も前から、いや、もっと遠くて物の始まった昔から、せつ子がそうであったような気がしているのだ。
 戦争が人間感覚を麻痺させた詐術なのだが、うっかりすると、当人までそうとは気づかず、十年も廿年も前から自家用高級車をのりまわしていたと思いこんでいるような詐術にかかっているのじゃないかと放二は思った。常の世の成金の思いあがりとは違う。戦争という魔物のはたらいた詐術であり、時間の感覚の奇怪な喪失なのである。
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