いこと、言えない義理よ」
記代子の言葉にこもっているのはエンゼル家の思想であった。それは記代子がエンゼル家に同化しつつあることを示していた。放二が捜査しはじめて、ちょうど一週間。彼女が失踪してたった十日間のうちに。
放二は感動した。
「ぼくの生涯は至らないことばかりです。目をすましても、いつも曇っていました。精いっぱいやって、それだけでした」
「そう。無能者。あなたはそれよ」
十三
記代子にくらべれば、自分の生涯などは、まったく無内容なものだったと放二は思った。
記代子は彼と語らっていたころは、彼に同化していたし、いわば彼を食事のように摂取していたと言えるかも知れない。青木と共にあるときも、そうだった。青木に同化し、青木の中に移り住んでいた。そして、今は、エンゼルと共に、そうなのである。
放二から、青木へ、エンゼルへ。彼女の遍歴は孤独者の足跡そのものだ。彼女のために、誰一人、本当に親切な友だちはいなかった。親切な肉親もいなかった。彼女はいつも、自分の全部のものを投げだして訴えていたのだが、それをうけとめるに足る男がいなかったのだ。放二がそうであったし、青木も
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