いと思ったからさ。坐りなさい」
青木はあきらめた。そして自分のカバン持ちだけ立ち去らせた。
「君もガンコな人だね。ナイショ話なんてものも風流じゃないか。え?」
「君の態度を軽薄だと思わないのかい? 立候補なんてこと考えるようになると、そんな風になるもんかねえ。今日の話は、君にとっては重大なことのはずだが、君がそんな態度なら、ぼくはオツキアイはおことわりだ」
長平は我慢できなくなって、吐きだした。それだけのワケがあってのことだ。
青木はにわかにおし黙って考えこんだ。静かに手をのばして、ビールをぬいて、みんなのコップについで、
「乾杯」
呟いて、グッと飲みほした。
「いや、どうも。ぼくもね。苦しかった。しかし、それもすんで、バカになったのさ」
青白く冴えた顔に苦笑がうかんだ。
二
「礼子がお訪ねしたそうだけど、お会いできなかったって残念がっていたよ」
青木はさりげなく切りだした。落ちつきをとりもどしてガサツなところはなくなっていたが、昔のなんの衒いもなかった書斎人の青木の面影とはどこかしら違ったものだ。
しかし、長平は、自分の受け取り方がヒネクレているせいか
前へ
次へ
全397ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング