青木の勇気はわき立つのである。キッピイに会ったところで、どうせ、たいしたこともない。むしろ居場所を突きとめるという事業に熱中する方が、気持がまぎれるというものだ。
 踊るうちに、酔いが沸騰していた。
「ここだな。ヤ。こんばんは。お嬢さん」
 めざす店の女給にからみつかれて、青木はキゲンよく挨拶した。
「キッピイさん、いるかい?」
 女は返事をしなかったが、その顔色で居ることを見てとると、それで青木は充分であった。カンの閃きに身をひるがえして応じる時が、彼の人生で最も順調な時間なのである。わずかに一分足らずであるが。彼はそれを心得ていた。わが人生の最良の一分間。
「ヤ。ドッコイショ」
 彼はイスに腰を下して、たちまち彼をとりまいた女たちを一人一人ギンミした。キッピイはいなかった。
「コンバンハ。麗人ぞろいだなア。ビールをいただきましょう。ときに、キッピイさんをよんで下さい。陰ながらお慕い申上げているオトッチャンが、一夜の憐れみを乞いにあがったとお伝えして、ね。イノチぐらい捧げますと、ね。ねては夢、さめてはうつつさ。わかっていただけるだろうね。この気持は。年のことは、言いなさんな」
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