の時は、敵意満々のようでしたけどね。敵意があるなら、他のことを言わなくとも、必ず言わなければならない言葉があったはずです。私は昨日まで、あの方がニンシンしていらしたこと、知りませんでした」
十一
ともかく、心理の足跡が、うかびでてきた。失踪の十日ほど前までの約十日間、記代子は毎日ただ一人で礼子のバーへ現れているのである。そして、礼子に向って、あなた、おもしろいの? つまんないでしょう、と言いかけるほかには押し黙っていた。そして、ニンシンについては、一言も、もらさなかった。
失踪の十日前。……
記代子が克子に会ったころだ。そしてその時はアベコベにニンシンを主に語っているのだ。克子からダタイの医者を教えてもらっているのである。
そのころ、記代子と青木との仲は、どうだったろう? 二人の間に何かあったのだろうか? それを青木にたしかめることは、いけないことだろうか、と、せつ子の言葉を思いだしながら、放二は考えた。
社のひけは、規則はないが、サンマータイムの六時ごろだ。編集部とちがって、作家まわりが少いから、ひけ時まで部員の顔はあらかた揃っている。青木と記代子も例外で
前へ
次へ
全397ページ中189ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング