間、かかったんだよ。ねえ、君。考えてみれば、ほかに、オレみたいな老骨を拾ってくれる会社はないじゃないか。誇りなんぞ、持ってやしませんよ。生きるには、食わねばならず、食うには、どこかで拾ってもらわざるを得なくなったからですよ。枝葉末節を語ればキリがないが、荒筋はそれだけさ」
「働くポストは」
「門番でも、事務員でも、編集でも。長と名のつくものを望まないよ。女房に逃げられた男が、ふった情婦の店で働くのに御慈悲の長は所を得ていませんよ。まア、当分、考えることを探すわけさ。もし人生に考える価値のあるものが在ったとしたらね」
長平はせつ子に当てて手紙を書いた。青木を使ってくれという依頼の。なぜなら、そのことに不賛成ではなかったから。
「ありがとう。女房が、イヤ、前女房が、銀座のバーで働きだしたよ。今度上京したら寄ってくれよ。たのまれたんだ」
そして青木は立ち去った。
翌朝、長平は東京を去った。
娘ごころ
一
「たまには、つきあえよ」
と、青木が放二をさそったが、
「でも、校正を急がなければなりませんから」
放二は明るい微笑で応じたが、額や頸には脂汗がう
前へ
次へ
全397ページ中116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング